COLUMN PRODUCT

vol.03
焚火台開発小噺

焚火台開発小噺

Ryo Yamashita

山下 亮

(企画開発部Gear開発部企画課 マネージャー)

普段生活の中では見ることがない自然の炎の揺らぎをただ眺めながら、その日一日の余韻に浸る。キャンプの中で一番好きな時間かもしれない。焚火に欠かせないのはもちろん焚火台。発売以来、基本的な構造は変わらず、20年以上も毎年販売数量を増やしている、スノーピークのシンボル的製品だ。そんな焚火台の開発プロセスはどのようなものだったのだろうか? 開発当時の自分はというと、まだ神社の敷地内でボヤ騒ぎを起こすような小僧だったので、当時のことを知る先輩社員たちにお話を聞いてみた。
焚火台は、開発者の自然を愛する「アウトドアマインド」から生まれた。
当時のキャンプシーンで焚火をするときは、地面に直火でする原始的なものが一般的だった。そのため、キャンプ場を見渡すと焚火をした焦げ跡がそこら中にある無残な光景があったそうだ。自然を楽しんでいる人たちが自然を破壊している実情に我慢ができず、環境を壊すことなく、誰でも安全かつ気軽に焚火を楽しめる焚火ギア開発が始まった。
初めに決めたのは、サイジング。一般的な薪の長さは30~40cm、それを収めるんだったら幅は45cmは必要だ。次に収納性、キャンプ用品なのだからコンパクトに収納できることは重要で、炎を地面から離すための脚も必須だった。
これらの基本スペックを念頭に置き、先輩たちは、何度も試作を繰り返していった。今のように3Dプリンターも光造形もレーザーカッターもない時代だったので。モックアップは段ボールを手で切って自作したと言う。当初はそれぞれのパネルが分解できる構造を考えていたそうだが、組み立て・分解の作業が面倒くさく熱変形も起こりやすいので、一体式で折りたためる構造を検討した。その試行錯誤から、現在でのお馴染みの少ないパーツでフラットに折りたたむことができる逆ピラミッド型のフォルムが生まれたのだ。上部に向かって広がる形状は燃焼効率の観点でも都合がよかったそうだ。
段ボールのサンプルで形状と使用感が固まったら実際に金属で作り検証を行った。初めに作ったサンプルは本体のプレートと脚の線材をリベットで止めたものだったがリベットやボルトで止めたものは生産するうえでの手間が多く、作業性が悪かったため、すぐに溶接での組付けに切り替えた。
当時、釣り具などの製造で付き合いのあった溶接屋さんにお願いしてステンレス板と線材を組み立て、検証用のサンプルを作ってもらった。年配のご夫婦でやっているような小さな工場だったが、燕三条でもトップクラスの腕を持つ職人だったそうだ。
検証で大きな問題となったのは耐久性。焚火台の表面の温度は800℃以上にもなる。やわな構造だと1回使っただけで変形してしまったり、部品の熱変形に耐えられず分解してしまう。検証では様々な板厚、線径で作ったサンプルを用意してとことん熱し続けた。焚火台の上に積めるだけの薪を積んで燃やしたり、1つの焚火台の周りをさらに焚火台で囲み外側からも熱してみたりした。毎度作る巨大な炎の熱量は凄まじく数メートル離れた場所でもとにかく熱かった。
検証過程を経て分かった丁度よいバランスが、現在の板厚1.5mm、線径8mmという構成だ。板厚が薄いと熱により外側へ腫れてしまう。線径が細いと曲がってしまう。吸気孔の大きさやヒンジ部に使用しているパイプの径、溶接の箇所などの細かい箇所も調整され最終的な仕様にまとまった。こうして完成した焚き火台は、今日までほとんどモデルチェンジすることなく定番として親しみ続けられている。
シンプルでスマートな外見と、徹底的に検証されたうえで得られた強靭な耐久性を持つ焚火台には、アウトドアギアとして独特な魅力があると思う。「僕の焚火台は10年選手なんだけど一度も壊れたことがないよ」というような話もよく聞かれる。長い年月にわたり愛着を持って使い続けてもらえる焚火台のような製品を作ることは、開発を行っている者の目指すべきところだと思う。
焚火を誰でも気軽に楽しめる文化を作ったこの製品を中心に焚火シーンを盛り上げるためにも、今年、来年にかけて焚火周りのギアをもっと強化していければと思う。

焚火台開発小噺
焚火台開発小噺
焚火台開発小噺
焚火台開発小噺
焚火台開発小噺
山下 亮(企画開発部Gear開発部企画課 マネージャー)
やました・りょう/人より長く大学生活を楽しんだ後、オーディオ関連のデザイン事務所を経てスノーピークに入社。今年の週末は専ら登山へ。自分の飽きっぽい性格には、ほとほと嫌気がさしている。